東北へ行くのは、8月下旬にした。お盆を避けたいからである。

 東北への貧乏旅行と言うと、今は亡き、ある先輩のことを思い出す。
 私が宇都宮に住んでいた5年前の夏、彼は突然やって来た。これから、東北へ野宿旅行へ行くと言うのだ。彼は、私のアパートに1泊し、NASAが開発した?と言う怪しい銀色の寝袋のようなものを自慢すると、北へ向かって行った。
 そして何日か後に戻って来た彼は、再び私のアパートへやって来た。「どうでした?東北は。」と聞く私に、彼は平然と、こんな話をしたのだ。
 「いやあ、仙台で、いつも通り野宿しようと思ったんだけどさあ、ちょっと時間が早かったんで、珍しく、ひとりで居酒屋に入ったんだよ。でもオレ酒弱いから、すぐ気持ち悪くなっちゃって、すぐ店出たんだ。
 それで歩きながら、野宿ポイント探してたんだけど、だんだん気持ち悪いのが我慢しきれなくなって来て、公園に着く前に吐いちゃったんだよ。道端に。でも、その時さあ、あんまり勢い良く、オエーって吐いたもんだから、ついでにウンコもブリブリって出ちゃってさあ。うわあ、前からも後ろからもだよ!って、いやあ、参ったよ。(笑)
 それで尻抑えながら(笑)、なんとか公園まで行って、水道で洗おうと思ったんだけど、着替えがないからさあ、仕方なく、下半身フルチンになって、Tシャツ腰に巻いて、裸エプロンみたいに前だけ隠して(笑)、洗ってたんだよ。そしたらさあ、公園で寝泊りしてるホームレスっぽい人が近付いて来たんだ。だから、いい野宿ポイントでも聞こうかと思って、話しかけようとしたんだけど、オレが下半身フルチンなのに気付くと、びっくりして、逃げちゃったんだよ。(笑)こいつ、やばいよって。いやあホント参ったよなあ。でさあ、その日が、オレの30歳の誕生日だったんだ!(笑)」
 そして、そのウンコ・パンツを私の洗濯機で洗ったことは言うまでもない。

 そんな先輩だが、私は彼から多大な影響を受けた。彼と出会わなければ、会社を辞めて、世界中を旅しようなんて思わなかったかもしれない。彼と出会わなければ、自分で古本屋をやろうなんて思わなかったかもしれない。